月明かりの幻想曲 −ファンタジア−





第二章  害悪なる者





「はっ!?」
ボクの意識が戻った時には、体はベットの上だった。
「ボクの部屋・・・?ってことは、さっきのは夢・・・? 」
ふと、横を見る。そこには―――
しっかりと、「契約書」となぜかひらがなで書かれた紙があった。
(・・・・子供のいたずら?でも、別の人に、ボクの夢の内容なんて分かるはずないし・・・うーん?)
とりあえす、その意味不明な紙を机の上に置き、今が何時なのかを確認する。

2:10

だった。
「・・・・・・・・え?」
昨日(正確には今日だが)コンビニに行った時刻は、確か1時半ごろだったはずである。
で、コンビニから家までは走っても往復で1時間。と、いうことは・・・・。

まさか、コンビニに行ったことさえも夢だった?いや、そんな事はありえない。なぜなら、この手にコンビニの袋が―――
「袋?」
ボクって、何か買ったっけ?
だが、手にはしっかりと袋が握られている。中身があるかどうかはともかく。
「・・・・・・・・・?」
とりあえず、休日である事を感謝しながら、もう一度眠りへとついた。
次に彼が眼を覚ましたのは10時だった。


「で、なんでいるんですか?ここに。あなたが。」
目の前には、幻想と思っていた人物がいる。夢のようなあの時とまるっきり同じ格好で。
「なぜってそりゃあ・・・。昨日契約したのでその説明に。」
「説明って・・・。」
いけしゃあしゃあと語るこの人。そう、この人である。
夢のようなよく分からない時間のなかで彼を「最もあってはならない状況」へといざなった張本人。あの「魔法少女」だった。
しかし、家には今日はボクしかいないはずである。どうやって入ったのだろうか。それも魔法でどうにかしたのだろうか。
もしそうだとしたら、魔法とは予想以上に便利というか、小道具的存在というか・・・。
「まったく、いつまでたっても家に来ないんですから。私のほうから来てしまいましたよ。」
少し膨れっ面になって少女が言う。あんな急なこと言われて、本当に行く人はいるのだろうか。
第一、なりたくないと思っている人物が「変身の仕方」をわざわざ習いに行くはずもない。
「さて、変身の仕方ですが・・・」
「ちょ、ちょっとまって!」
無理矢理ボクを契約させたこの子なら、話の途中に話しかけても、止まらないだろう。
「なんですか?」
「あのさ、契約書って、どこにあるの?」
もっともな疑問である。ボクが朝になってから見た紙はひらがなで書かれた落書きだけである。
「2階の貴方の部屋ですよ。」
「・・・・・・・・・は!?あの落書きが!?」
コクリ、と少女がうなずく。
「じゃあ、本題に戻ってもいいですね。じゃあ・・・」
といい、彼女は話し出す。
「変身の仕方はいたって簡単です。左手の甲に右手を添えて、『エフェクト』とつぶやくだけです。」
「・・・・・それだけ?」
変身、というぐらいなのだから、さぞ恥ずかしいセリフを言わせられるのだろうと思っていたのだが、いたって普通だったので、つい拍子抜けしてしまう。
「はい。それだけですよ。では次です。」
「・・・・・・・はぁ。」
やっぱりボクの思ったとおりだ。この子は一度走り出したら止まらない子なんだ・・・。
「変身の解除の仕方です。先ほどと同じように左手の甲に右手を添えるのですが、セリフが少し違います。『ディス・エフェクト・エクスキューション』です。」
「ディス・・・?」
「『ディス・エフェクト・エクスーキューション』、ですよ。コレをわすれたら変身が一生解除できないんですからね。」
やたら長い呪文である。しかも、それを忘れたら変身が解除できないと。なんというか、いじめの域である。
少女はゆっくりと立ち上がると、カメラを持ってきた。
「ささ、さっそく変身してみてくださいよ。」
「・・・・じゃあ、なんでカメラがいるんですか・・・」
「仕様です。さあさあ。」
はあ、とため息をつく。まったく、今日はなんと言う日なのだろう。
いやいやながらも、やらないと終わらないだろうこの空気をさっさと変えるために、右手を左手の甲に添える。
「えーっと・・・・・え、『エフェクト』。」
呟いた瞬間、まばゆい光がボクの身体を包む。それは、やさしくて、とても暖かい。
「うわっ・・・・?」
「ふむ・・・・『光魔法使い』ですか・・・」
彼女がなにを呟いていたかのはわからなかった。暖かい光に包まれていくなかで、身体にあらたな感触が生まれる。
(服装が・・・・変わった・・・?)
光が消える。そこにいた自分の姿を、姿見で見る。
「え・・・・。は、はぁ!!?」
そこにいたのは、間違いなく自分。自分ではあるのだが、服装がおかしい。服装が――――

ふりふりの付いた、高校の制服のようなチェック柄のミニスカート。
長袖で、少し大きめのYシャツ。
髪には、いつの間にか三日月型のヘアピンが付いている。
靴下は、一回も身に着けたことの無いニーソックス。

正に、女の子だった。
「ちょ、ちょっと!なんなの、この格好は!どう見てもただの女の子じゃないか!」
「ええ。これが戦闘服ですよ。それとも、もっとふりふり〜で可愛い服がよかったですか?」
笑いながら彼女が言う。本当に楽しそうである。
「・・・・・・・はぁ・・・・。」
もう、どうにでもなれと思い、変身を解除しようとしたその時だった。
(ッ!!)
頭痛がひどい。それも急にだ。なぜ?何かを感じ取ったとでもいうのか?
「頭痛が・・・しますか・・・?」
彼女が尋ねてくる。なぜ、そんな事が分かるのだろうか?
「するのなら、契約が成功した証拠です。さあ、いきましょう。敵さんのお出ましですよ。」
「て・・・き・・・・?」
「ええ。さ、いきましょうか。」
頭を抑えているボクを、彼女が立ち上がらせて、いっしょに歩き出す。
「あっと。名前まだ教えていませんでしたね。フレアです。」
「え?あ、えと・・・白銀 咲羅、です。」
よろしくおねがいしますね、とフレアは呟く。そして、一気に加速する。
飛ん――――でる?確かに身体は宙に浮いていた。フレアに寄り添うように、ボクの身体は宙に浮いて、加速を始めている。
下にではなく、前に、だ。
(・・・・・・コレが魔法・・・・)
一気に目的地らしきところへと到着する。そこには、漆(くろ)い獣がいた。
まさに漆黒。猛獣。何かよく分からない触手をうねらせ、天に向かい咆哮している。
「コレが・・・・敵・・・・。」
今の呟きで、こちらに気付いたらしい。すばらしい聴覚である。
「来ますよ。下がっていてください。」
「え?う、うん。」
後ろへと下がる。獣とは十分すぎる距離がある。
後ろまで下がると、フレアは何かを呟き始める。その手に、炎が発現する。
獣の咆哮。額の巨大な角で一突きの元に粉砕する気らしい。
「燃え尽きなさい!『ルージュ・オブ・バーン』!」
その一言と共に炎がまるで弾丸のように何発も飛んでいく。
その全てが獣へと吸い込まれていく。全弾命中。瞬く間に獣が燃え尽きる。
「グオオォォオォ!!」
咆哮と共に獣が絶命する。そして、地面へと消えていく。
「・・・・・・・・・。」
ボクは、ただ呆然とその光景を見ているだけだった。

「さて、今のが敵。『インフレンス』です。」
「インフレンス・・・・?それが敵の名前なの?」
ええ、といい、コクリと頷く。
「名前というより、総称、ですね。意味は英語で『害悪』です。」
「害悪・・・・。」
害悪、というよりあれは『殺意』の塊だったように思える。正に欲望の塊。悪意の象徴。
あんな物がこの世界にいるなんて。しかも、そのことに気付いていなかったなんて。
「さて、説明の時間が短縮できましたね。今のが敵であり、それを私たちは『魔法』で倒す。」
「・・・・・・。」
「それが私たち『魔法少女』が世にいる理由であり、意味でもあります。」
いっている事は、大体意味は分かる。ボクたちは正義の味方である。そして、奴らは敵。人間に害を成すもの。
だが、問題は魔法の出し方である。乗り気ではないが、魔法が使えないと、戦う事はおろか、飛ぶ事すらできない。
「あの、一ついい?魔法ってどう出すのかな?」
「さぁ?」
あっさりと返されてしまった。
「さぁ?って・・・・。ボクは本とかそんな物持ってないし・・・・」
「私も持ってませんよ、そんな物。」
「え?」
びっくりした。てっきり、魔道書みたいなのを持っていて、そこに呪文などが書いてあるのだと思っていたのだが・・・。
「呪文の事に関しては、戦えば分かると思いますよ。きっと、ですけど。」
「きっとって・・・・・。」
「さて、話す事はもうこれ位ですかね。」
んー、と背伸びをして、彼女は歩き出す。少しいくと振り返り、
「あ、明日から少し家を空けるので、何か聞きたい事があったら、携帯の番号が住所の紙にいっしょに書いてあると思うので、そこに。」
「え?あ、うん。」
「では♪」
と、いうと彼女は一気に加速し、何処かへと消えていった。そんなに急がなくても・・・・
(まあ、いいや。ボクも変身をといて家へ帰ろう。)
と、ふと思う。
変身解除の呪文は、なんだっただろうか。

・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・

「ああーーっ!!」



緊急事態である。変身解除の呪文が分からない、というか忘れてしまった。
急いで家へと帰り、例の携帯の番号へと電話をする。が、
「おかけになった電話番号は、現在・・・・」
プツ。
「いったいどうしろって言うのさー・・・」
ちなみに、その後一、二時間ごとに電話をかけたが、最初にかけたときとまったく同じで、「おかけになった電話番号は、現在・・・・」という機械の声が聞こえてくるだけだった。



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